ライターの未来のために。
ブックライター・編集ライターに特化した講座を開講
「ライターになりたい」「ライターとして、もっとスキルアップしたい」。そんな思いを抱える人のために、2021年4月、もり塾「ブックライター・編集ライター養成コース」を開講した森恵子さん。実践的に学ぶオンライン講座を受講生とともに1年間走り終え、今感じることは? 次期に向けての思いを聞きました。
専門性の高いライターが求められている
「文章を書くのが好きで本気でライターを目指す人に、仕事を得る喜びを味わってほしい」
講座を開講した理由を、森さんはそう語ります。ライターとしてしっかり収入を得られるように、出版業界でニーズが高い二つの職種に特化した、もり塾「ブックライター・編集ライター養成コース」を昨年4月に立ち上げました。
「ブックライター」は、著者に代わって書籍の原稿を書くライターで、長編を構成する力に加え、長期間執筆する持久力も必要。「編集ライター」は書く力に編集技術もあわせ持ち、編集者を兼務することができるライターです。いずれも専門性が高く、ウェブライターと比べると原稿料が高いのが一般的です。
「ライターという職業の極め方には、2種類あると思います。ブックライターのように『書く』ことについて深めていくか、編集ライターのように『書く』以外にも広げていくか。編集部から重宝がられて、仕事の依頼が絶えないライターになるには、こういう方法があると伝えたいのです。また、スキルを身に付ければ一生仕事ができます。ライターを目指す人、そしてライターとして今後の方向性を考えている人に、ぜひ受けていただきたい講座です」
一人の学びを全員に拡大する工夫
もり塾の講義は月2回、オンラインで行われます。1年間のカリキュラム(1期の場合)は、ライターに必須のスキルを学ぶ前期と、企画から編集まで一連の流れを卒業制作の冊子を作りながら学ぶ後期で構成されています。ほぼ毎回、課題が出されるのも特徴です。
「以前はフリーランスのライターも打ち合わせなどで編集部へ行く機会があり、そこで仕事を教えてもらったり、アドバイスをいただけたりすることがありました。今は仕事の依頼も打ち合わせもオンラインが増え、ウェブ媒体では編集者がいない場合もあります。仕事を通して編集者から学び、ライターが仕事の幅を広げていく環境が、ますます減っています」
そうした状況でもしっかりと学べる場として、もり塾を開講した森さん。講義は森さんのほか、ブックライター、編集ライター、編集者、編集長など、業界をよく知る複数の講師が現場で必要とされる技術やマインドを伝授します。課題に取り組む中で見つかった疑問や発見は講義中にシェアし、一人の学びが全員の学びにつながるように工夫されています。共に学び、冊子を作る過程で塾生たちの距離が縮まり、励まし合う関係になっていくといいます。
「私の場合、フリーランスで働くことに孤独を感じていた時期がありました。気の置けない仲間ができると、何気ない一言に救われたり、ホッとしたりできます。塾の同期という関係が、それに近いものになればいいなと思っています」
仕事を開拓するツールになる卒業制作
フリーランスのライターが仕事を得るには、ライティング技術に加えて仕事を依頼されるための編集者との関係作りは欠かせません。それには、一つ一つの仕事をきちんとこなし、編集者との間に信頼関係を築くことが大切。すると、経験や年齢にかかわらず、仕事の依頼が続くようになるのです。
「その仕事が好きで真摯に取り組めば、熱意やひたむきさは編集者に伝わります。技術だけでなく、その姿勢もとても大事です。編集者はライターの特性に合わせて、この企画だったらAさん、この企画だったらBさんと、仕事を依頼しているのです」
もり塾1期では、どのように仕事を見つけていくかのノウハウも教えました。そして、卒業制作として、受講生全員でインタビュー集の冊子を制作しました。各自が企画を立て、ラフコンテを描き、取材、撮影、執筆、校正と一連の作業に取り組みました。完成した冊子は電子書籍化して、Amazonでも販売しています。これは塾生が自分を売り込む際に活用できる自己紹介ツールになります。実践で学んだことを仕事につなげる環境を、森さんは用意しています。
「1期生は講義や課題を通して自分と向き合い、そのたびに成長しました。卒業制作の冊子も好評で、『この冊子を作った人なら仕事を頼みたい』というオファーも。予想以上の反響に私も驚き、うれしく思っています」
好きな仕事をする喜びと果たせなかった欠乏感
若いころから書くことが好きだった森さんですが、当時は出版社に就職するすべもなく、教師になりました。結婚を機に教師を辞して専業主婦になった森さんは、しばらくして、「今度こそ、自分の好きな仕事をしたい!」と思い始めます。出産後も、その思いが募りました。やがて、友人のすすめで投稿誌の会員になり、編集長に認められて、森さんはフリーランスのライターとして出発します。2人目の子どもが2歳のときでした。
「好きな仕事をできるようになったのですから、それはもううれしかったですよ。だから本当に無我夢中で働いてきました。でも、ライティングも編集も何も習っていない中で、手探りでやっていたのです。どうしてもわからないときに、相談できる人がいたらどんなにいいだろう、と何度も思いました」
育児雑誌や女性誌のライターの仕事を続けていると、その周辺の仕事も依頼されるようになりました。
「これが編集者としての仕事でもあるんだ」と気がついたのは、数年後、本格的に編集者としての仕事をするようになってからだったと言います。
自分の好きな仕事で生活する喜び。「専門のスクールできちっと学びたかったけれど行けなかった」という欠乏感。二つの思いが、ライター志望者を応援する森さんの原動力になっているのです。
技術を身に付け、仕事のきっかけをつかんでほしい
「ご本人が望んでいれば、皆さんに少しでも仕事をしてもらいたいと思っています。そのためにも、めでぃあ森で受ける仕事を増やして、希望者に依頼できるようにもっと努力したい」と森さんは語ります。
2022年3月に卒業した1期生の場合、広報誌やウェブ記事の執筆、文芸誌の座談会や医療研修会のテープ起こしなど、7割の塾生が仕事に携わっています。一定の技術レベルに達した人は「めでぃあ森」のスタッフ登録も可能です。森さんは、講座を卒業したあとにもライターとして実績を積んでいく足掛かりを作っています。
「まだライターとしての自分の方向性がわからない人には、学びから入り口を広げ、チャンスをつかんでいってほしいです。一つ一つの仕事を一生懸命こなすうちに、自然とその先の道が見えると思います」
森さんは今、もり塾2期の開講に向けて準備を進めています。塾生同士で行う模擬インタビューやディスカッションの時間など、実践的なカリキュラムを強化するそう。
「塾生同士で意見交換することは、とても大事なこと。自分から意見を伝え、でも押し付けず、相手を受け止めることで、自分の考えが深まります。自分の考えを持っていてこそ、相手の話をしっかり聞けるのです」
書く力だけではなく、ライターに必須の「聞く力」も講座の中で自然と磨かれていく。一人ではなく共に学ぶから、より高いレベルに到達できる。そんな学びの場を、森さんは目指しています。
撮影/菊田ともこ・高井紀子
森 恵子(もり・けいこ)
国語科教師、専業主婦を経てフリーランスライター、編集者に転身。 2012年に株式会社めでぃあ森を設立し、書籍のプロデュースと編集業務を行う。ライターや編集者の育成、文章講座などの講師としても活動。 2021年「もり塾」を開講。ライターとして『読売ウイークリー』著者インタビュー連載、編集ライターとして『家庭画報きものサロン』連載、『物語 講談社の 100年』共同執筆編纂など。著書に『いつか愛した』『ハウスワイフはライター志望』など。これまでに編集やプロデュースで携わった書籍は 300冊を超える。
株式会社めでぃあ森 https://mediamori.com/