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カスハラで傷つく人を減らし、
気持ちよく仕事や買い物ができる社会へ

 

 

202410月、東京都のカスタマーハラスメントを防ぐ条例が成立し、カスタマーハラスメント、通称「カスハラ」が社会的な問題として注目を集めています。
「これが企業の姿勢が変わるきっかけになれば」と期待するのは、20年前からクレーム対応を担当してきたオフィスエーゲ代表の加藤義樹さん。本年5月にこれまでの活動をまとめた書籍『カスタマーハラスメント撃退の教科書』を出版、都内で開催された出版記念講演会を訪ね、話を聞きました。

 

 

変化の激しい携帯電話業界で15年間クレームに対応

 
カスタマーハラスメントとは、従業員に対して客が理不尽な要求をしたり商品やサービスに不当な言いがかりをつけたりすることで、これにより業務に支障をきたしたり従業員が傷ついて退職するケースもあります。
 
「ハラスメントを受けた本人も、その上司も頭を痛めています。予防線を張ることで防げることは多いのですが、まだまだ知られていないのが現状。カスハラで心を痛めたり、命を落としたりする人を少しでも救いたい」と加藤さん。
 
クレームコンサルタントとして活動する加藤さんは、長年、現場でクレームに対応してきました。そのスタートは20年前、2004年に携帯電話業界に転職したことがきっかけでした。
 
30代・男・未経験・派遣スタッフという、職場ではマイノリティな存在。早く認めてもらおうと、一般的に女性が敬遠しがちな技術や携帯電話の仕組みなどを勉強して、お客さまやスタッフに聞かれたら、すぐに答えられるようにしました。クレーム対応にも進んで対応していたのです」
 
携帯電話が急速に普及し、大手携帯電話事業者の合併や買収が相次いだ時期。続々と新機種が登場し、契約形態も複雑化する中、加藤さんはキャリアショップの窓口スタッフから3年半で店長に抜擢。10年間で7店舗の店長を任され、統括も経験しました。
 
「新機種なのに改良されていない! こんなものはいらない!」「タダで他の機種に交換しろ!」「データが消えた! どうしてくれるんですか!」など、加藤さんが店長時代に対応したクレームは2,500件を超えるといいます。
 
「東海地方4県には60名の店舗責任者がいましたが、他の店舗責任者から、よく相談を受けました。そうしたことから、クレーム対応は社内で一番できるだろうと思っていました」
 
クレームやトラブル対応は「状況を客観的に分析し、相手の感情の動きに沿って解決してきた」という加藤さん。多数の経験からクレーマーのタイプを分類し、今後のために経験を蓄積しました。そして「業界やジャンルにかかわらず、クレームやトラブルが起きる理由に共通するのは結局、人」という答えにたどり着きます。

 
 

音声メディアで無料相談をすると⋯⋯

 
2019年に独立し、人材育成のコンサルティングを開始した加藤さん。コロナ禍で出会ったのが、音声メディアclubhouse(クラブハウス)でした。
 
Clubhouseでコミュニティを作り、参加者と交流する中で「クレーム」をテーマに話すと、「あなたの経験は立派なスキル、コンテンツになるのでは」と参加者に言われました。
 
そこで「クレーム110番」というルームを立ち上げると、クレーム対応の悩みだけでなく、クレームを言いたい側の人から「どう交渉したらよいか」などの相談が寄せられました。また、ご近所トラブルや家族のコミュニケーションなど、広範囲の相談が毎日寄せられ、3年間で1,000件以上の相談に対応したといいます。

 
 

オーディションでクランプリを獲得、出版へ

 
多くの事例から「スキルや予防対策をすればクレームは減らせる」と実感した加藤さんは、いつかはそれをまとめて書籍にしたいと考えるように。そこで、仕事の合間に原稿を書き始めます。そんな折、以前に出版の可能性について話を聞いたことがある出版社が、4年ぶりにオーディションを開催すると知り、エントリーしました。
 
2023年3月、最終オーディションに残った21名が東京でプレゼンを行い、加藤さんは見事グランプリを受賞。出版が決まりました。途中まで書いていた原稿を見直し、担当編集者にアドバイスを受けながら、ついに書籍『カスタマーハラスメント撃退の教科書』の原稿を書き上げました。
 
「一般的にはタイトルは出版社で決めるそうです。ちょうど『カスタマーハラスメント』という言葉をメディアで見聞するようになり、編集者に提案してみました。タイトルに自分の案の一部が採用されたのだと思うと、うれしかったですね」
 


2024年5月18日、都内で出版記念講演会を開催。出版の経緯や思いを披露した。
 
 

会社・スタッフ・顧客、三方よしの社会を目指す

 
出版がきっかけで「講演や執筆の依頼が舞い込んできた」という加藤さん。現場の実態を知るからこそ、リアルに伝えられることがあるでしょう。これからの夢は?
 
「カスハラやクレームで一番大変な思いをしているのは現場スタッフです。店長が頑張ってクレーマーと戦っても、会社から『謝罪しろ』と指示され、心が折れて退職するケースは少なくありません。会社が後ろに控えていてくれるのは大きな安心感であり、モチベーションになります。
企業は利益があり、従業員はスキルを上げながら楽しく働ける環境、そして、お客さまは気持ちよく買い物ができる、三方よしの社会が理想です。カスハラを予防することがその実現につながると信じています」
 
企業が従業員とどう向き合っていくかが問われているようでもあり、今回の条例が「企業が動くきっかけになるといい」と加藤さんは願っています。
 
「個人的な夢は、家族が健康で仲良く、楽しく生きていくこと。著書が版を重ねて、発行部数1万部になること。そして、『クレームといえば加藤』と認知され、ABEMA Primeにコメンテーターとして出演するのが夢です」
 
明るく語る加藤さんをずっと応援してきたのは、結婚16年目を迎えるトルコ人の愛妻・セルギュールさん。活動のモチベーションになっているのは愛娘・ネフェス愛花ちゃん。講演会では、笑顔で加藤さんを見守っていました。
 


妻のセルギュールさんと長女のネフェス愛花ちゃん(6歳)。
 
 

 
 
 



取材・文・撮影/高井紀子


 
 

 

 
 
 
 

【プロフィール】

加藤義樹(かとう よしき)
 
オフィス・エーゲ代表 クレームコンサルタント。
1972
年愛知県名古屋市生まれ。 30代で携帯電話業界に転職、大手一次代理店運営のキャリアショップにて窓口スタッフから店長、統括まで経験。問題課題の抽出と解決・改善を得意とし、特にクレームなどのトラブル対応の経験は対面を中心に 2,500件以上。
その後、研修会社等を経て独立、クレームコンサルタントとして活動を開始。トラブル予防のための先を読む接客術、トラブル発生時の対応術、クレーマー・カスタマーハラスメント対応&撃退法のスペシャリスト。
 

(本の紹介)
『カスタマーハラスメント撃退の教科書 小さな会社でも即実践できる !』( Clover出版)
クレームゼロもストレスゼロも不可能であり、そのために知っておくべき基本の考え方や前提を示す。クレーマーをタイプに分類して対処法を紹介。多数の実例から、クレームは予防が大事であること、7つの基本とソフト面・ハード面・システム面の3要素での予防を提案する。

Amazon: カスタマーハラスメント撃退の教科書

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